夏休み期間中にウチの会社へ体験学習をしたいというオファーが地元の中学校からあった。
企業は、中学生に対して何を教えるべきか?
そして、学校の先生は職場体験に何を期待しているのか?
内情を元中学教師で現役塾講師のマツイ ケイスケさんに聞いてみた!
マツイ ケイスケさんは中学校理科教師を経て、不登校の生徒、問題行動を起こす生徒、学校の授業についていけない生徒などを対象とした塾を開いている先生。
子供の接し方について詳しく解説しているブログ「元教師が教える思春期の子どもへの接し方のコツ」を運営。
1)先生が生徒に体験学習を通して期待することは?
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まず、「体験学習」における先生のねらいは何ですか? |
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新しい学習指導要領の「総合的な学習の時間」の目標には、課題解決に向けての「過程」が重要視されています。 その中でも、「探求的な学習」と「共同的な学習」の2つが特に重要視されています。 |
総合的な学習の時間(目標)
横断的・総合的な活動を通して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に、主体的、創造的、共同的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようになる。
中学校学習指導要領 第4章
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職業体験は、子ども達が職場に出向き、働いている様子を見ることだけが学習ではありません。 |
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子どもにとって、「働く」ということはよく分からないことなのです。そのため学校では、子どもの勤労観や職業観を育むための活動を行います。 |
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なるほど、具体的にはどのような活動ですか? |
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まず、どのような職業があるのか調べたり、仕事の内容をノートや紙芝居・レポートなどにまとめたりして、クラスで発表します。 |
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これらの学習の振り返りやクラス、グループ内での意見交換などを、事前に行っておきます。 また、ある仕事の専門家の方などに学校に出向いてもらい、講師として話をしてもらうこともあります。 |
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確かにそういうの、ありましたね! |
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これらの活動を通して、子どもに「働くこと」を理解させるのです。その後、自分の興味のある職場に足を運び、現場を見て体験させていただくことで、子どもの中の「勤労観」や「職業観」を養っていくのです。 |
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なるほど、ありがとうございました! |
2)企業が生徒に教えて欲しいことは?
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私たち企業側は、子供たちをどのように指導したら良いのでしょうか? 先生サイドからの希望があれば教えてください! |
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企業には、子ども達に勤労観・職業観を養わせることが求められています。職業体験は、未来を担う子ども達を育てる非常に重要なことです。 |
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子ども達は、「どんな仕事をするのか」「この職場で働いている人たちは、何をやりがいにしているのか」「なぜ、この仕事を選んだのか」「どんな人が向いている仕事なのか」などという強い関心を持っています。 |
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中学生になると、知らない大人の前でなかなか質問できないものですが、学校に戻ってからの彼らの表情は行く前と全然違います。 |
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以前私が体験学習を担当したとき、子供たちに「質問の時間」を設けましたが、たしかに「なぜこの仕事を選んだのか?」「やりがいはあるか?」はよく聞かれました! |
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なるべく分かりやすく明確に仕事内容を伝えたり、作業風景を見せていただいたりすれば、子ども達に伝わりやすくなりますのでありがたいですね。 |
実は「企業側が体験学習について思っていること」についてマツイ先生に思い切ってぶつけてみた。
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企業側から思うことは、正直な話「地域貢献のためのボランティア」の域からあまり出ないであろうというのが、大半の企業が感じているのではと思います。 |
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1~2名の従業員が2~3日生産性のない業務に割かれてしまうことから、数万円のコストを掛けて実施していることになります。 |
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それは「地域貢献」という名目においては全く構わないのですが、私が思うことはそういう「見えないコスト」が中学生に向けられていること、そしてその経験を今後の人生で活かして欲しいと願っていることを、中学生が感じてくれたらうれしいな…と思っています。 |
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職場体験の担当者様は、日本の未来の主役達を育てる非常に重くて責任のある仕事をしていただくことになります。 |
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その日の生産性は落ちるかもしれませんが、何十、何百という子ども達の未来への懸け橋を創ることになるのです。 |
3)「中学生の企業体験学習」マツイ先生は賛成?反対?
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「中学生が企業へ体験学習に行く」ことに関してマツイ先生は賛成ですか?反対ですか? |
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賛成ですが、まだまだ改善の余地ありだと思っています。 |
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具体的にはどういう部分ですか? |
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もう少し家族が関わるようにしたいですね。今は1から10まで学校がやっています。 |
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思春期になると家族の会話もなくなっていくので、例えば「学校がリストアップした企業一覧の中からどこへ行きたいのか親と話し合う」「自分たちで行きたい企業を調べてアポをとる(これはいろいろと難しい)」というように家族で何かできるようにしたいですね。 |
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たしかに職業体験では企業のアポイントや体験のルールづくり、各企業への挨拶や生徒用のレポート製作など、先生の裏方作業は多そうに見えます。 |
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職業指導担当になると、半年に渡って「職業指導に関すること」をしなくてはいけなくなります。この半年間は本当に地獄です。 教師の数を各学校あと1人増やす、「事務処理や部活動を担当する人」をつくる…などをしてもらいたいですね。 |
4)体験学習に評価基準はある?
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最後に、体験学習には生徒の評価に関わる基準はあるのでしょうか? そもそも一連の活動で何かを評価しているのでしょうか? |
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評価基準はもちろんあります。 しかし、具体的には言えません! |
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やっぱり機密か何かでしょうか? |
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評価基準が漏れると困るなどではなく、学校(学年)によって違うからです。 こういうことをすればA評価、これだとB評価というような評価とは違います。 |
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総合的な学習の時間の目標と照らし合わせて、体験学習後の子ども達はどうだったのかという振り返りや反省でもあります。 |
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各学校の実態や生徒の実態に応じて評価基準つくっておくのです。 例としてはこのような感じです。 |
マツイ先生に提示していただいた評価基準例
≪学習方法に関すること≫
- 複雑な問題状況の中から適切に課題を設定することができる。
- 仮説を立て、検証方法を考え、計画を立案することができる。
- 目的に応じて手段を選択し、情報を収集することができる。
- 事実や関係性を見出し、自分の考えを持つことができる。
- 課題解決に向けていくつかの事象を比較したり、関係性を見出すことができる。
- 視点を定めて様々な情報を分析することができる。
- 目的や意図に応じて、論理的に表現することができる。
≪自分自身に関すること≫
- 自らの行動に責任を持ち、意思決定することができる。
- 目標を明確にし、課題解決に向けて計画的に行動することができる。
- 自らの生活のあり方を見直し、日常的に実践することができる。
- 自分の将来を考え、夢や希望を持つことができる。
≪他者や社会とのかかわりに関すること≫
- 異なる意見や他人の考えを受け入れ、尊重することができる。
- 互いの特徴を生かし、共同して課題を解決することができる。
- 環境の保全を考えて行動することができる。
- 課題の解決に向けて、社会活動に参画することができる。
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評価は子ども達の実態によって変わりますが、以上のような基準になります。 |
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なるほど、今回も色々とありがとうございました! |
今回もマツイ先生には丁寧に答えていただいた。
強調しておっしゃっていたことは、企業への体験学習を通じて「働く」ことについて理解することで、子供たちにとって自分の将来の生き方を考える重要な機会であるということだった。
子供の接し方がよくわかるマツイ先生のブログは、本ブログのTOPのRSS配信と以下のリンクから閲覧可能。
興味深いお話も多く掲載されているので、ぜひ一度訪れてほしい。